2021年11月11日
自費か保険か
【しらせデンタルクリニック】院長の白瀬浩太郎です。
今回のコラムのテーマは「自費か保険か」です。
自費診療の代表的なものに「矯正」や「インプラント」があります。
根管治療は保険適応されており、自費で行うのは一般的ではありません。
審美治療(被せ物)も保険と自費がありますが、
こちらは被せ物の素材(銀歯かオールセラミック)によって、
その違いが分かりやすいかと思います。
根管治療の自費と保険との違いとは?
目次
① 保険内の根管治療の成功率
② 根管治療で大切なこと
③ 世界標準の成功率
④ 日本の根管治療の現状
⑤ おわりに
① 保険内の根管治療の成功率
虫歯が進行すると、歯の中の神経を抜くことになります。
神経が入っている管(くだ)を根管(こんかん)といい、
そこに侵入した細菌を除去するのが「根管治療」です。
細菌の除去が不十分だと、細菌が増殖し歯根の先で炎症を起こし、
膿が溜まったり、痛みが出たりします。
いわゆる根の先の病気(専門的な用語で【根尖性歯周炎】と言います)になります。
根管治療の成功とは、根の先の病気を発症していないことです。
日本国内の成功率はどのくらいでしょうか?
※須田らの調査から、
日本国内の根管治療の成功率は約40%であると推測されています。
(※須田秀明 わが国における歯内療法の現状と課題. .J-Stage 2011.)
つまり、半分以上は失敗しているのです。
② 根管治療で大切なこと
根の先の病気の原因は、細菌です。
一度根管内に侵入した細菌をゼロにすることはできませんが、
炎症をおこなさない(再発しない)水準まで細菌を減らすことはできます。
これが根管治療のゴールです。
また根管治療の大切な理念として、
「新たな細菌を入れない環境で、侵入した細菌を取り除く」
があります。
いくら頑張って細菌を取り除いても、
新たな細菌の侵入があれば状況をさらに悪化させます。
「新たな細菌を入れない」の代表格が、ラバーダム防湿です。
ラバーダム防湿を行い、科学的根拠に基づいた方法で「侵入した細菌を取り除く」ことを
無菌的処置の原則を遵守した根管治療と言い、世界で標準される根管治療です。
当院ではこの「世界標準の根管治療」を行なっています。
この成功率をみてみましょう。
③ 世界標準の成功率
世界で標準とされる根管治療の※成功率は、
歯の状態によって以下の3つに分けられます。
【抜髄】(神経に反応がある歯 ) = 約 95 %
【感染根管治療】(神経に反応がなく、根管治療歴がない歯 ) = 約 80 %
【再根管治療】(根管治療歴のある歯)=約 70 %
(※Sjogren U, et al. J Endod 1990. Salehrabi R,et ai. J Endod 2004. Setzer FC, et ai. J Endod 2010. Gorni FGM, et al. J Endod 2004.)
また上記で治癒しない場合は、
第二段階として「歯根端切除術」の介入となり、
その成功率 は※ 約 90 % です。
(※ Setzer FC, Shah SB, Kohli MR, Karabucak B, Kim S.Outcome of Endodontic Surgery: A Meta-analysis of the Literature―Part 1: Comparison of Traditional Root-end Surgery and Endodontic Microsurgery.J Endod 2010;36:1757–1765.)
つまり、以下の「2段構え」で対応することになります。
<世界で標準とされる治療ステップ>
根管治療 成功率 70〜95 % 治癒しなければ → 外科的歯内療法 成功率 約 90 %
つまり、かなり高い予知性を持って根の先の病気を治すことができ、
また根の先の病気が原因で抜歯になる可能性は数%以下であることがわかります。
④ 日本の根管治療の現状
日本国内の根管治療の成功率は約40%です。
その理由について紐解いていきたいと思います。
※吉川らは、毎回必ずラバーダム防湿を行っている一般歯科医は約5.4 %であったと
報告しています。
大きい虫歯で天然の歯質が少ない歯には、
ラバーダム防湿を確実にするために隔壁形成が必要になりますが、
(詳細はコラム「隔壁形成について」をご参考にしてください)
※浅井らは、隔壁が必要な歯に「毎回必ず隔壁を行う一般歯科医師」は
34.8 %であったと報告しています。
(※歯内療法におけるラバーダム防湿に関する調査-2019-2020- . JEA, 2021.)
これらから保険内の根管治療では、
新たな細菌が入るかもしれない環境下(簡易防湿)で根管治療を
行なっている場合が多いと考えられます。
「簡易防湿」
なぜこのような現状なのでしょうか?
主な原因は、歯科医が受け取れる保険の診療報酬額です。
保険診療の根管治療によって歯科医が受け取れる報酬は約8000円です。
世界で標準とされる根管治療を行うには、
まとまった治療時間【 90 分 ✖︎ 2 回 】が必要です。
・ラバーダム防湿と隔壁形成 30分
・根管拡大 90〜120分
・根管洗浄 10分
・根管充填 10分
・術前術後の説明 10分
大まかな時間の内訳になります。
最も時間を要する「根管拡大」ですが、
根管の本来の形を損なうことなく根の先まで根管拡大することは容易ではありません。
また再治療の場合は、古いお薬(ガッタパーチャ)を慎重にマイクロスコープ下で
取り除くためさらに時間を要します。
治療時間の合計 90分✖︎2 = 180分 = 3 時間、
その利益が8000円では大赤字です。
つまり日本の保険診療内の根管治療は制限された中で,
各歯科医が医院の状況を踏まえて善処しているというのが現実です。
⑤ おわりに
根管治療は歯の長持ちに関わる大切な治療の一つです。
再発した場合は再度根管治療になり、その都度、被せ物の再制作が必要になります。
また再治療を繰り返すと歯の強度は低下、そのダメージは蓄積され、
最悪 抜歯に至ります。
(詳細はコラム「歯根の破折」をご参考にしてください)
専門治療(自費) or 保険診療
患者様が、それぞれの価値観、その時々のライフステージにおいて、
納得のいく決断をしていただくのを願っています。
院長 白瀬 浩太郎
〜 科学的根拠(エビデンス)に基づいた世界標準の根管治療を 〜
「歯の痛み、歯茎の張れ、深い虫歯、神経を残す治療、神経を抜く治療、根の治療 、
膿の袋の治療、歯根嚢胞の治療、歯の移植」等でお困りの方は
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